指定申請の手続きそのものは、行政書士であれば誰でも一通り説明できます。しかし「個別支援計画書を実際どう書けば実地指導で指摘されないか」「日々の運営でどう回していくか」となると、現場を知らないと語れません。
このコラムでは、現役の就労継続支援B型管理者兼サービス管理責任者(サビ管)としての立場から、個別支援計画書の書き方を記載例つきで解説します。
個別支援計画書の基本構成
個別支援計画書は、大きく次の要素で構成します。
- 利用者本人・家族の意向
- 総合的な援助の方針
- 長期目標(おおむね1年)
- 短期目標(おおむね3〜6ヶ月)
- 具体的な支援内容(達成時期・提供する支援・留意事項)
- 優先順位
このうち「総合的な援助の方針」は、単なる一言メモではありません。本来は相談支援専門員が作成する「サービス等利用計画」の項目であり、個別支援計画書ではその内容を転記するのが基本の運用です(詳しくは後述)。ここが曖昧なまま作成すると、長期目標・短期目標が場当たり的になり、支援内容もバラバラになります。
実地指導でよく指摘されるのは、目標が抽象的すぎて「達成したかどうか誰にも判断できない」パターンです。以下のように、行動と頻度・水準まで落とし込んで書きます。
記載例(軽作業班・就労経験を積みたい利用者の場合)
本人の意向:将来的に一般就労を目指したい。まずは休まず通いたい。
総合的な援助方針:安定した生活リズムの確立を土台に、作業スキルと対人スキルの段階的な向上を図る。
長期目標:週5日、月あたり出勤率80%以上を維持しながら、軽作業工程を独力で完遂できるようになる。
短期目標:3ヶ月間、月あたり出勤率70%以上を維持する。作業手順書を見ながら工程の8割を自力で行えるようになる。
具体的な支援内容:出勤日は朝礼時に体調確認を行い、体調記録表に記入(毎日・支援員)。作業工程は週1回、写真付き手順書を用いて振り返りを実施(毎週金曜・サビ管)。
このように「誰が」「いつ」「何を」「どの水準まで」を明記しておくと、モニタリング時の評価もぶれません。
利用者本位で作る ― 相談支援専門員の「サービス等利用計画」との関係
個別支援計画書は、事業所が作成する書類ですが、あくまで主役は利用者本人です。事業所側の都合(人員配置やプログラムの都合)を起点に目標を決めてしまうと、本人の意向とズレた「事業所のための計画書」になってしまいます。作成・見直しの各段階で、本人(必要に応じて家族)に内容を説明し、同意を得るプロセスを省略しないことが基本です。
もう一つ実務上おさえておきたいのが、「総合的な援助の方針」という項目名そのものが、本来は相談支援専門員が作成する「サービス等利用計画」の項目だという点です。相談支援専門員による計画がある場合、個別支援計画書の同項目は、その内容を転記する形で作成するのが基本の運用です。事業所側が独自に文言を作ってしまうと、利用者を中心にした支援全体の方向性からズレるおそれがあります。
※この転記の運用については、自治体(指定権者)によって取り扱いが異なる場合があります。実際の運用にあたっては、事業所の所在する自治体の指定権者に確認することをおすすめします。
実務上のポイント
- 相談支援専門員が作成したサービス等利用計画が手元にあるか、まず確認する。あれば「総合的な援助の方針」欄はそこから転記する
- セルフプラン(相談支援専門員を介さず本人・家族が自ら計画を作成しているケース)の場合は、事業所側でアセスメントに基づき方針を定める必要がある
- 他のサービス(例:居宅介護等)との役割分担が、サービス等利用計画上どう位置づけられているかを把握し、事業所として重複や漏れがないか確認する
- 計画作成・更新のタイミングで、可能な範囲で相談支援専門員と情報共有し、モニタリング結果をフィードバックする
この関係を意識せずに作成すると、事業所ごとに目標がバラバラな「縦割りの支援」になり、本人にとって一貫性のない支援体験になってしまいます。個別支援計画書は単独で完結する書類ではなく、本人を中心とした支援ネットワーク全体の一部である、という位置づけを意識して作成することが重要です。
ICT・AI活用のすすめと注意点
個別支援計画書の作成は、利用者数が増えるほど作成・更新の負荷が大きくなります。ここでAI(ChatGPTやClaudeなど)を下書き作成の補助に使うのは有効です。
おすすめの使い方
- 支援員が記録したアセスメント内容の箇条書きメモを渡し、目標・支援内容の文章化をAIに下書きさせる
- 前回のモニタリング結果をもとに、次期の短期目標案を複数パターン出させて、サビ管が選択・修正する
- 表現の抽象度チェック(「頑張る」「見守る」など評価不能な表現の洗い出し)にAIを使う
注意点
- 利用者の氏名・具体的な生活歴などの個人情報をそのまま入力しない(匿名化・記号化してから入力する)
- AIが出した文章をそのまま計画書に転記しない。必ずサビ管が本人の状態と照らして確認・修正する(計画書の作成責任はあくまでサビ管にある)
- 定型文化しすぎると「その人らしさ」が消え、実地指導で「使い回しではないか」と見られるリスクがある。AIの出力は必ず個別の状況に合わせて手直しする
AIはあくまで「下書きの時間短縮」のための道具であり、アセスメントや本人・家族との合意形成のプロセスを代替するものではない、という位置づけを崩さないことが重要です。
担当職員をアセスメント・モニタリングの段階から参加させる
個別支援計画書は、サビ管が一人で作って現場に降ろす運用だと、どうしても現場の実態とズレていきます。実務上効果が大きいのは、担当職員(日々その利用者を直接支援する支援員)を、計画作成の最初の段階から巻き込むことです。
具体的な運用のコツ
- 初回アセスメント面談に担当予定の支援員を同席させる。本人の言葉のニュアンスや表情の変化は、記録だけでは伝わりきらない
- モニタリング会議には必ず担当職員を出席させ、日々の記録をもとに「目標達成度」を一緒に評価する場にする
- 計画書のドラフト段階で担当職員にレビューしてもらい、「その目標、実際の現場では無理がある」といった現実的な修正を反映する
この体制を作っておくと、計画書が「絵に描いた餅」にならず、実地指導の際にも「支援員が計画の内容を答えられる」状態を作れます。逆に担当職員が計画の中身を把握していないと、指摘事項に直結します。
まとめ
個別支援計画書は、様式を埋める作業ではなく、「本人の意向を、現場で実行可能な行動レベルまで翻訳する」作業です。AIを使った時短と、担当職員を巻き込む体制づくりを組み合わせることで、質を落とさずに運用の負荷を下げることができます。
指定申請の手続きだけでなく、こうした運用面のご相談も承っています。
