令和8年8月5日、出入国在留管理庁から「2号特定技能外国人の業務内容について」という通知が発出されました。要点を一言でまとめると、令和8年8月20日以降に受け付けられる2号特定技能に関する在留諸申請では、「技能実習や特定技能1号と同じ立場ではなく、複数の従業員を指導しながら工程を管理する業務に従事している」ことを示す誓約書の提出が新たに必要になる、というものです。
この通知をきっかけに、実際にご相談をお受けした事例があります。本稿では、特定の企業・個人が識別されないよう、業種・地域・時期などの詳細を変更したうえでご紹介しながら、特定技能2号の「実務経験」の数え方について、見落とされがちなポイントを整理します。
ある事例:畜産農業に転職したMさんのケース
Mさん(仮名、南アジアなどの出身)は、来日当初は技能実習生として漁業関係の職種に従事していました。技能実習2号を良好に修了した後、特定技能1号に移行して介護分野で働き、その後、転職して南九州のとある畜産農業経営体(本稿では「F牧場」とします)で、特定技能1号(畜産農業全般)として勤務するようになりました。
F牧場では、Mさんは後輩のNさん(仮名)1名を指導する立場にありましたが、それ以上の人数を指導した経験はありません。また、技能実習で修得した技能(漁業関係)は介護・畜産農業のいずれとも関連性が認められないため、Mさんは介護・畜産農業それぞれの特定技能1号への移行時に、技能試験・日本語試験をいずれも通常どおり受験して合格しており、「技能実習2号良好修了」による試験免除の対象にはなっていません。
Mさんの在留期限が近づいてきたタイミングで、支援を委託されている登録支援機関(本稿では「G社」とします)が、今回の8月5日通知を受け取りました。そこで初めて、「Mさんは2号評価試験の受験要件である実務経験(特に、複数名指導の実務経験)をそもそも満たしているのか」という点が問題になったのです。
このケースは、決して特殊な例ではありません。技能実習からの職種変更や、特定技能1号内での分野転職を経てきた方ほど、実は「複数名指導」の実務経験を積む機会がないまま在留期限が近づいている、ということが起こりやすいのです。
実務経験には2つのルートがある
農業分野で特定技能2号評価試験(畜産農業全般・耕種農業全般)を受験するには、次のいずれかの実務経験が必要です(F牧場が受け入れているのは畜産農業全般区分ですので、以下は畜産農業を例に説明します)。
- 3年ルート:畜産農業の現場における3年以上の実務経験
- 2年ルート:複数(2名以上)の従業員を指導しながら作業に従事し、工程を管理する者としての2年以上の実務経験
どちらか一方を満たせば受験資格を得られますが、逆に言えば、どちらも満たしていなければ、そもそも試験を受けることすらできません。全国農業会議所(試験実施団体)は、受験申込みの時点で実務経験証明書の提出を求め、要件を満たしているかを確認したうえで受験番号を発行する仕組みになっています。「とりあえず受けてみる」ということができない点は、意外と見落とされがちです。
Mさんの場合、F牧場での勤務期間そのものはある程度の年数に達していましたが、「複数名指導」の実務経験は1名分の指導経験しかなく、2年ルートの要件を満たしていませんでした。そこで3年ルートの可能性を検討することになったのですが、ここでさらにいくつかの論点が出てきました。
見落としやすい4つのポイント
① 技能実習期間も実務経験に含められる場合がある(ただしルートによって扱いが異なる)
「特定技能1号としての実務経験しかカウントされない」と思い込んでいる方も多いのですが、3年ルート(現場における実務経験)については、技能実習期間も含めて考えられるとされています。一方で、2年ルート(複数名指導の実務経験)については、技能実習期間はカウントされないとされています。技能実習生の立場では、そもそも他の作業員を指導・管理する立場にはないためです。
Mさんの技能実習は漁業関係であり、農業の現場における実務ではないため、いずれにせよ算入の余地はありませんでした。加えて、Mさんは畜産農業の前に介護分野で特定技能1号として働いていた期間もありますが、この介護分野での就労期間も、当然ながら「農業の現場における実務経験」には算入されません。一方で、技能実習(農業関連の職種)から農業分野の特定技能へそのまま移行された方であれば、3年ルートについては、思っているより早く到達しているケースもあり得ます。この点は対象となる実務の範囲や証明書類の整え方など、細部を個別に確認する必要があります。
② 海外(本国等)での実務経験も対象になり得るとされている
3年ルート・2年ルートいずれについても、日本国内での経験に限定されるわけではなく、海外(本国等)での農業実務経験も算入できるとされています。仮に日本での実務経験だけでは要件に届かない場合でも、本国での就農経験を証明できれば、通算で要件を満たせる可能性があります。ただし、その場合の実務経験証明書は日本語で作成してもらう必要があるとされており、証明書類の整え方や算入の可否は個別に確認が必要な部分です。安易に「本国での経験があるから大丈夫」と判断せず、事前に確認することをお勧めします。
③ 「複数名指導」の実務経験は、断続していても構わない
これは今回の運用要領(農業分野)にも明記されている点で、実務上かなり重要です。運用要領では、「複数の作業員を指導しながら作業に従事し、工程を管理する」実務経験について、次のように説明されています。
複数の作業員を指導する期間は必ずしも同一期間である必要はなく、繁閑期などの農業の特性により、管理業務に従事した期間のうち一部指導を行わない期間があっても差し支えありません。
つまり、農閑期などで一時的に指導対象が1名以下になる期間があったとしても、それだけで実務経験のカウントがゼロに戻るわけではなく、通算で2年に達していれば要件を満たし得る、ということです。Mさんのケースでは、そもそも複数名を指導した期間自体がほぼ無いため、この規定の恩恵は受けられませんでしたが、「季節によって指導人数が変動する」という農業特有の事情がある事業者様にとっては、押さえておく価値のあるポイントです。
④ 「特定活動」への変更や、技能実習への逆戻りで実務経験を積み増すことは想定されていない
在留期限が近づいてから「とりあえず特定活動に切り替えて時間を稼ぎ、その間に実務経験を積む」という発想や、いったん特定技能の在留資格を得た方が改めて技能実習の在留資格に変更する、いわゆる「逆コース」によって要件を満たそうとする対応は、基本的に想定されていません。実務経験が足りない場合の対応は、在留資格の切り替えという小手先の方法ではなく、正面から実務経験の積み方(就労の継続、必要であれば本国での就農経験の活用等)を検討し、あわせて入管や全国農業会議所に個別の取扱いを確認しておくことが安全です。
「5年の壁」との関係を整理しておく
特定技能1号には、通算5年という在留期間の上限があります。ここで重要なのは、この5年という上限は、あくまで特定技能「1号」に対するものだという点です。特定技能2号にはこの上限がありません。
つまり、1号の5年が近づいてきたからといって、「日本で働き続ける道が絶たれる」わけでは必ずしもありません。実務経験と試験合格という要件さえ整えば、2号への道は別に開かれています。ただし、その要件(特に実務経験の年数)が5年の壁までに整うかどうかは、逆算して早めに確認しておく必要があります。Mさんのケースのように、ぎりぎりになってから「複数名指導の経験が足りない」と気づいても、打てる手はかなり限られてしまいます。
なお、5年の壁ちょうどで要件が間に合わない場合でも、2号評価試験で合格基準点の8割以上を取得し、所定の誓約を行うことで、例外的に6年目まで在留期間を延長できる制度があります(農業分野も対象です)。ただし、これも事前に試験を受験できていることが前提になるため、そもそも受験資格(3年または2年ルート)を満たしていなければ使えない点に注意が必要です。Mさんのケースでは、この6年目延長のルート自体も、実務経験要件を満たさない限り使えない、という点が最大の懸念材料になりました。
今のうちに確認しておきたいこと
- 現在指導している人数は何名か。2名以上を指導した実務経験が通算で何年になっているか(断続していても通算でカウントできる)
- 技能実習期間を含め、農業の現場での実務経験が通算で何年になっているか
- 本国等での農業就労経験を証明できる資料(在職証明等)が確保できるか
- 現在の在留期限から逆算して、2年(または3年)ルートの到達時期が5年の壁の前に来るかどうか
- 到達が間に合わない場合、6年目延長の要件(試験受験・8割以上の得点)を満たせる見込みがあるか
まとめ
今回の8月5日通知は、これまで明文化が徹底されていなかった「複数名指導」という2号の実体的な要件を、あらためて誓約書という形で確認させるものです。裏を返せば、受入れ現場の体制(何名を指導しているか)が、そのまま在留資格の帰趨に直結する、ということでもあります。
Mさんのケースのように、技能実習からの職種変更や、特定技能1号内での分野転職を経てきた方は、実務経験のカウントが複雑になりがちです。「試験に合格すればよい」というシンプルな話ではなく、実務経験の年数・内容と在留期限の兼ね合いを、早めに逆算しておくことが何より重要です。
当事務所では、特定技能1号から2号への移行に関するご相談を承っております。「うちの場合、実務経験は何年分・何名分になっているのか」という確認だけでも構いませんので、在留期限に余裕があるうちに、お気軽にご相談ください。
行政書士マキノ事務所 牧野洋一(行政書士登録番号 第22102516号)
