成年後見制度が、2000年の制度創設以来26年ぶりに抜本改正されました。「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)は2026年6月17日に成立、同月24日に公布されており、現時点ではすでに成立済みの法律です。施行は公布から2年6か月を超えない範囲内で政令によって定められる見込みで、遅くとも2028年12月24日までには施行されます。今回は、改正に携わった専門家による研修の内容をもとに、任意後見業務に携わる立場から特に押さえておきたいポイントを整理します。
※本コラムは成立済みの法律に基づく内容ですが、具体的な運用(政省令・裁判所の実務運用等)については今後定められる部分も多く、今後の情報公開により変更・具体化される可能性があります。
最大の変更点:「後見」「保佐」「補助」が「補助」に一本化
今回の改正の中心は、判断能力の程度に応じて分かれていた「後見」「保佐」「補助」という3つの類型を、「補助」に一本化するという点です。「後見」と「保佐」は廃止され、条文上も、従来「後見開始の審判」だった規定が「補助開始の審判」という形に置き換わります。「精神上の障害により」という要件も、「精神上の理由により」という表現に改められました。
これに伴い、後見制度の大きな特徴だった「包括的な代理権」も廃止されます。「成年後見人は本人を代表する」という条文上の文言が削除され、今後はすべての事案において、特定の法律行為ごとに代理権目録・同意権目録を作成する形に統一されます。制度の一元化にあわせて、必要な範囲・必要な期間だけ利用できる「オーダーメイド型」の制度へと大きく舵を切った改正だと言えます。
今、後見・保佐を利用している方はどうなるのか
すでに後見・保佐を利用されている方については、経過措置として、大きく3つの選択肢が用意されています。
① そのまま利用を続ける(従前の例による)
経過規定により、施行前から利用している後見・保佐については、引き続き従来どおりの制度を使い続けることができます。② 新しい「補助」制度へ移行する
本人や関係者の意向により、新制度への移行を選択することもできます。③ 新制度に移行したうえで、取消しの審判により終了する
現行制度をやめたいという意向がある場合は、いったん新制度に移行したうえで、取消しの審判という手続きを経る形になります。
③については、条文上「取り消すことができる」という書き方になっていますが、これは一律に取消しが認められるという意味ではなく、再度の申立てが予定されている場合や、後見・保佐の業務が現に継続している場合、取消しによって本人に不利益が生じることが明らかな場合などは、家庭裁判所が取消しを認めない運用になる見込みとされています。この点は法律の条文だけでは読み取りにくく、今後の国会審議や実務解説を通じて明確化されていく部分になります。
新しい概念「特定補助」とは
改正後の制度では、「特定補助」という新しい仕組みが導入されます。これは、本人が同意の意思表示をすること自体が難しい場合に、家庭裁判所が必要と認めるときに限り、法律で定められた重要な財産行為について、取消権のみを付与するというものです。同意権は伴いません。
この特定補助という考え方は、国会審議の過程でも複数の議員から疑義が示され、衆議院法務委員会では「障害者の権利を不当に制約しないよう求める」付帯決議が採択されています。本人の意思決定支援を制度の前提としながら、必要な保護をどう両立させるかという、今回の改正の一番難しい部分がここに表れていると言えます。
後見監督人が「必須」ではなくなる ―ただし専門職も油断は禁物
もう一つの大きな変更点が、後見監督人(補助監督人)が必須ではなくなるという点です。これは、家庭裁判所による直接の監督を認める、という意味合いを持ちます。
ここで注意したいのは、「専門職が受任した場合は監督人が付かない」という理解は誤りだという点です。改正後の条文も、「監督人による監督が必要でない時」という形で区切られており、専門職だからという理由だけで監督人が外れるわけではありません。本人の財産状況や、それまでの後見・補助業務の状況、家庭裁判所側の体制などを総合的に考慮したうえで、監督人を選任しない場合もありうる、という改正だと理解しておく必要があります。
あわせて、監督人の「人選」についての希望を、契約書等であらかじめ示せるようになる点も実務上のポイントです。これまでは、監督人の候補について希望を書くと、かえって選任されにくくなるという扱いが実務上なされてきましたが、改正後は、監督の要否や範囲についての希望までは反映されないものの、「この人を監督人にしてほしい」という人選についての希望は聞いてもらえるようになる見込みです。
任意後見に関わる改正ポイント
任意後見の実務に直結する変更点として、次の3点が挙げられます。
- 補助との併存が可能に:これまでは、任意後見契約がある場合、その契約を終了・解除しない限り法定の補助を開始できませんでした。改正後は、任意後見契約を維持したまま、契約でカバーしきれない部分についてのみ、法定の補助を追加で利用できるようになります。例えば、親族が任意後見人となっているケースで、身上保護は問題ないが財産管理だけが立ち行かなくなっている場合に、身上保護の部分は任意後見のまま、財産管理の部分だけ補助で補う、という運用が可能になります。
- 代理権目録の変更が公正証書のみで可能に:これまで代理権目録を追加・変更する場合は、変更部分だけの契約を結ぶか、契約全体を結び直す必要がありました。改正後は、契約締結能力がある限り、公正証書による変更契約のみで代理権目録を変更できるようになります。
- 「不開始の合意」による予備的受任者の実現:これまで実務で行われてきた「予備的受任者」(第1受任者に何かあった場合に備える第2受任者)は、登記事項にできないという法制上の理由から、条文上は正式に規定されない扱いとなりました。その代わりに導入されたのが「不開始の合意」という仕組みです。任意後見契約を締結する際に、「他の受任者が死亡等の事由により欠けるまでは、任意後見監督人選任の審判をすることができない」という合意をあらかじめ契約の中に盛り込んでおくことで、実質的に予備的受任者と同様の効果を持たせることができます。ただし、この合意は契約締結時に定めておく必要があり、既存の契約に後から追加することはできません。予備的な受任者を検討している場合は、契約の締結・変更のタイミングでこの制度の利用を検討する必要があります。
あわせて進む社会福祉法の改正
今回の民法改正とあわせて、社会福祉法の改正も同時に審議・成立しています。後見実務に関連する主なポイントは次の2点です。
- 「中核機関」から「地域権利擁護相談支援センター」へ:これまで閣議決定に基づく存在だった中核機関が、社会福祉法に基づく機関として「地域権利擁護相談支援センター」という名称に変わります(令和9年4月施行予定)。
- 新たな第二種社会福祉事業の創設:身寄りのない高齢者等に対する日常生活支援に加えて、入院等の手続支援や死後事務まで含めた事業が、新たに第二種社会福祉事業として位置づけられます(令和10年4月施行予定)。従来の日常生活自立支援事業は判断能力の低下を要件としていましたが、新事業は「身寄りがないこと」を要件とする点が異なります。また、後見制度の利用を終えた後にこの新しい事業へ移行する、という運用も一部想定されており、これまでの「日常生活自立支援事業から後見制度へ」という一方通行の流れが、双方向のものになっていく可能性があります。
まとめ ―実務者として今からできること
今回の改正は、成立・公布は済んでいるものの、施行はこれからであり、政省令や家庭裁判所の運用基準など、具体化されていない部分がまだ多く残っています。特に、経過措置における取消しの運用基準や、監督人を選任しない場合の具体的な考慮要素などは、今後の国会審議や裁判所実務を通じて明らかになっていく見通しです。
任意後見の実務に携わる立場としては、現時点で断片的な情報に振り回されるのではなく、施行までの期間を使って、既存の契約書式(特に予備的受任者に関する条項)の見直しや、補助との併存を前提とした制度設計の検討を、少しずつ進めておくことが大切だと感じています。
当事務所では、今回の制度改正の動向を注視しながら、任意後見契約書の作成・見直しについてもご相談を承っております。将来の制度改正を見据えたご準備について、お気軽にお問い合わせください。
